現場で実際にあったAIの話|第5話

「資格を取りたかったわけじゃない」その一言で、この出来事の意味が分かりました

生成AIを使えるようにするため、その社員は生成AIパスポートを取得しました。 しかし、本人の目的は資格そのものではありませんでした。 会社と同じ目線で話すために、知識を分かる形で示す必要があった。 その言葉から、この出来事の本当の意味を振り返ります。

この記事について
この記事は、私が実際に職場で見た出来事をもとにしています。 会社名や人物を特定できないように、一部の表現を調整しています。

前回までの話

生成AIの利用を止められた中途社員は、 安全に使うための知識を学び、自分で利用ルールを作りました。 その結果、まず本人の利用が認められ、 さらに会社全体でも生成AIを使えるようになりました。

私には、ずっと気になっていたことがありました

この出来事を近くで見ていて、 私には一つ気になっていたことがありました。

なぜ、その社員は資格まで取ったのだろう。

前の会社では、生成AIを日常的に使っていた人です。

議事録の作成。

メールの下書き。

VBAやマクロの改善。

生成AIの使い方が分からない人ではありませんでした。

実際の仕事で使った経験もあります。

それなのに、なぜ改めて生成AIパスポートを取得したのでしょうか。

最初は、知識を増やすためだと思っていました

私は最初、生成AIについてもっと詳しく学ぶためだと思っていました。

あるいは、履歴書へ書ける資格を増やすためかもしれない。

自分の知識や能力を証明したかったのかもしれない。

しかし、どれもしっくりきませんでした。

その人の行動を見ていると、 資格を取ったこと自体を誇っているようには見えなかったからです。

資格証を見せて、自分の正しさを主張したわけでもありません。

学んだあとに行ったのは、 会社が安心して生成AIを使えるようにするための 利用ルール作りでした。

ある日、本人に理由を聞いてみました

そこで、ある日その社員に聞いてみました。

「どうして生成AIパスポートを取ったんですか」

その人は少し考えてから、静かに答えました。

「資格を取りたかったわけじゃありません」

私は、少し意外に感じました。

資格を取得した本人が、 資格を取りたかったわけではないと言ったからです。

必要だったのは、会社へ伝わる形でした

その人は、続けてこう話しました。

「会社に、AIを使わせてほしいと言うだけでは、 説得力が足りないと思ったんです」

「安全に使うための知識を学んでいることを、 分かる形で示す必要がありました」

「その方法として、資格が一番分かりやすかっただけです」

その言葉を聞いたとき、 私の中で、この数か月の出来事が一本につながりました。

資格を取ったから、会社が変わったのではありません。

会社が何を心配しているのかを考え、 その不安へ向き合うために学んだ。

そして、学んだことを会社へ伝わる形にした。

その結果として、資格があったのです。

資格は、会社に勝つための武器ではありませんでした

それまで私は、 資格とは知識や能力を証明するものだと思っていました。

もちろん、その役割もあります。

しかし、この出来事では少し違いました。

資格は、会社に自分の正しさを認めさせるための 武器ではありませんでした。

社員と会社が、同じ言葉で話すための土台でした。

社員は、生成AIの便利さを知っています。

管理職は、生成AIを使うことで起きるリスクを考えています。

その二つの間には、見えているものの違いがあります。

その違いを埋めるために、 安全な利用に必要な知識を学び、 その知識を会社へ説明できる形にしたのです。

資格だけでは、会社は変わりません

もし、その社員が資格を取得しただけで、 会社へ資格証を見せていたらどうなっていたでしょうか。

おそらく、それだけでは会社の判断は変わらなかったと思います。

会社が知りたかったのは、 資格を持っているかどうかだけではありません。

どの情報を入力しないのか。

AIの回答を誰が確認するのか。

誤った内容が出たとき、どう対応するのか。

実際の仕事で、どのように安全を守るのか。

その社員は、学んだ内容を利用ルールへ変えました。

資格と行動がつながったことで、 初めて会社が判断できる材料になったのです。

本当の目的は、もっと良い仕事をすることでした

その社員は、生成AIを使って楽をしたかったわけではありません。

資格を取って評価されたかったわけでもありません。

AIに任せられる単純作業は任せて、 本当に考える必要がある仕事へ集中したかった。

そのためには、会社にも安心して利用を認めてもらう必要がありました。

だから、安全な利用方法を学びました。

だから、資格を取得しました。

だから、利用ルールを作りました。

すべての行動の先にあったのは、 「もっと良い仕事がしたい」という思いだったのです。

一人の社員から始まった変化は、会社全体へ広がりました

最初に生成AIの利用を認められたのは、 その社員本人でした。

その後、社員が作ったルールの考え方をもとに、 会社全体の利用ルールが整備されました。

そして、全社員が生成AIを利用できるようになりました。

最初は、一人の社員と一人の管理職の間で起きた話でした。

しかし、そのやり取りから会社の仕組みが生まれました。

会社を動かしたのは、 AIについて詳しい人がいたからだけではありません。

相手の立場を理解し、 相手が安心して判断できるものを作った人がいたからです。

この出来事は、資格を取った人の成功談ではありません

第1話では、生成AIの利用が止められました。

第2話では、その社員が会社の不安を考え、 学びと利用ルールによって会社を動かしました。

第3話では、管理職もAIを止めたかったのではなく、 会社を守るために判断できずにいたことを紹介しました。

第4話では、AIが取り戻したのは、 単なる作業時間ではなく、考える時間だったことを紹介しました。

そして最後に分かったのは、 この出来事が資格を取った人の成功談ではなかったということです。

これは、仕事をもっと良くしたいと思った一人の社員が、 会社の立場を理解し、 会社もその行動を受け止めたことで生まれた変化でした。

この出来事があってから、私の考え方も変わりました

私は以前、会社が決めたことは簡単には変わらないと思っていました。

新しい方法を提案しても、 ルールがない、責任を持てないという理由で止まる。

それなら、仕方がない。

そう考えていたのです。

しかし、今回の出来事を見て、 会社が動かない理由を考えることの大切さを知りました。

相手が反対していると決めつけるのではなく、 相手が何を不安に感じているのかを考える。

その不安を減らすために、自分に何ができるのかを考える。

その小さな行動が、 会社全体を変えることもあるのだと思いました。

このサイトを作っている理由

この出来事をきっかけに、 私自身も改めて考えるようになりました。

会社で生成AIを安全に使うためには、 何を知っておけばよいのか。

管理職は、どのような点を心配しているのか。

社員は、便利な使い方だけでなく、 どのようなリスクを理解する必要があるのか。

このサイトでは、そうした知識を、 初めて学ぶ人にも分かりやすく整理しています。

生成AIパスポートの学習コンテンツも、 資格を取ることだけを目的にしたものではありません。

仕事で生成AIを安全に活用するために必要な知識を、 順番に学べるようにまとめています。

会社で生成AIを安全に使うための知識を学びたい方へ

情報漏えい、個人情報、著作権、AIの誤回答など、 仕事で生成AIを活用するための基礎知識を 初心者向けに分かりやすくまとめています。

おわりに

このシリーズを書き始めたとき、 私は生成AIを使えるようになった出来事を書こうと思っていました。

しかし、最後まで振り返ると、 これはAIの話だけではありませんでした。

仕事をもっと良くしたいと思った社員の話。

会社を守ろうとした管理職の話。

そして、お互いの立場を理解しようとした人たちの話でした。

だから、この出来事で一番印象に残っている言葉は、 「AI」でも「資格」でもありません。

「資格を取りたかったわけじゃありません」

その言葉の奥には、 「もっと良い仕事がしたい」という、 とてもシンプルな思いがありました。

この5話のどこかで「それ分かる」と感じたなら、 その気持ちが、あなたの職場で新しい一歩を考える きっかけになればうれしく思います。