現場で実際にあったAIの話|第2話
「AIは使うな」と言われても、会社を動かした一人の社員の話
生成AIの利用を止められた中途社員は、会社を責め続けるのではなく、 会社が安心して利用を認められる方法を考え始めました。 一人の社員が、学びと利用ルールによって会社を動かした実話です。
この記事は、私が実際に職場で見た出来事をもとにしています。 会社名や人物を特定できないように、一部の表現を調整しています。
前回までの話
前職では当たり前に生成AIを使っていた中途社員が、 新しい会社では利用を止められました。 社員は生産性の低下を訴えましたが、 管理職はルールのない状態では責任を持てないと答えました。
第1話を読む「会社なんて変わらない」と、私は思っていました
生成AIの利用が止められたあと、私はこの話はここで終わるのだろうと思っていました。
会社には利用ルールがありません。
管理職は、何か問題が起きたときに責任を負えません。
現場で便利だと分かっていても、会社の判断を変えるのは難しい。
私自身、長く会社で仕事をしてきた中で、同じような場面を何度も見てきました。
新しい方法を提案しても、「前例がない」「ルールがない」「何かあったら困る」と止まってしまう。
だから今回も、最後は利用禁止のままになると思っていました。
その社員は、会社への不満を言い続けませんでした
ところが、その社員は少し違いました。
「便利なのに、なぜ分かってくれないのか」
そう言い続けても、会社の判断は変わりません。
その人は、利用禁止になった理由を考え始めました。
なぜ会社は認められないのか。
管理職は、何を心配しているのか。
何があれば、「使ってもよい」と判断できるのか。
相手を説得する前に、相手の立場から問題を見直したのです。
管理職が困っていたのは、AIの便利さではありませんでした
社員にとって大切だったのは、仕事を予定どおり終わらせることでした。
生成AIを使えば、議事録やメールの下書き、VBAやマクロの改善などを効率よく進められます。
その便利さは、実際に使っている本人が一番よく知っています。
しかし、管理職が見ていたのは別の部分でした。
会社情報を入力してもよいのか。
個人情報や顧客情報が外部へ出る可能性はないのか。
AIが間違った回答を出したとき、誰が確認するのか。
問題が起きたとき、誰が説明するのか。
管理職が欲しかったのは、「AIは便利です」という説明ではありませんでした。
安心して利用を認められる根拠だったのです。
その社員は、生成AIを安全に使うための学習を始めました
そのことに気づいた社員は、生成AIを安全に利用するための知識を学び始めました。
情報漏えい。
個人情報。
著作権。
AIが事実と異なる回答をするハルシネーション。
生成AIを使えることと、安全に使えることは同じではありません。
前職で日常的に使っていた経験だけでは、新しい会社を安心させるには足りないと考えたのだと思います。
そして、その社員は生成AIパスポートを取得しました。
資格を取っただけでは、会社は変わりませんでした
ここで大切なのは、その社員が資格を取っただけで終わらなかったことです。
資格証を見せて、「これで使わせてください」と言ったわけではありません。
学んだ内容をもとに、自分で生成AIの利用ルールを作り始めました。
どのような情報を入力してはいけないのか。
AIが作った文章やコードを、どのように確認するのか。
誰が、どの業務で利用するのか。
どのような問題が起きたら、利用を止めるのか。
会社が心配していたことに対して、一つずつ答えを用意していったのです。
「使わせてください」から、「このルールなら使えます」へ
最初のやり取りでは、社員は生成AIを利用したいと伝え、管理職は責任を持てないと答えていました。
そこでは、社員と管理職がそれぞれ自分の立場から話していました。
しかし、利用ルールを作ったことで、会話の内容が変わりました。
「生成AIは便利なので使わせてください」
ではなく、
「この情報は入力しません。出力は人が確認します。 このルールで運用します」
会社に判断を求めるだけではなく、判断できる材料を自分で用意したのです。
最初に利用を認められたのは、その社員でした
会社は、提出された利用ルールを確認しました。
そして、まずその社員本人に、生成AIの利用を認めました。
会社全体で急に自由化されたわけではありません。
安全に使うための知識を持ち、自分でルールを作り、その内容に沿って利用する人から始めたのです。
私はその流れを見ながら、会社が変わるときは、もっと大きな決定や経営者の指示が必要なのだと思っていたことに気づきました。
実際に始まったのは、一人の社員の小さな行動からでした。
その考え方が、会社全体のルールになりました
その後、社員が作った利用ルールの考え方をもとに、会社全体で使う生成AIのルールが整備されました。
そして、全社員が生成AIを使えるようになりました。
数日前まで、生成AIは利用禁止でした。
それが、一人の社員が学び、考え、会社が安心できる形にしたことで、会社全体の仕組みに変わったのです。
会社を動かしたのは、「AIは便利です」という強い主張ではありませんでした。
会社が何を不安に感じているのかを理解し、その不安を減らす方法を示したことでした。
相手が動かないとき、足りないのは説明ではないかもしれません
仕事の中で、「こんなに便利なのに、なぜ分かってくれないのだろう」と感じた経験はないでしょうか。
新しいシステム。
業務改善。
自動化。
どれほどメリットを説明しても、相手が動いてくれないことがあります。
そのとき、説明が足りないと思い、さらに便利さを伝えようとするかもしれません。
しかし、本当に足りないのは、相手が安心して判断するための材料かもしれません。
この社員が会社を動かせたのは、自分の正しさを証明したからではありません。
相手が心配していることを理解し、その心配に答えたからでした。
会社を変えたのは、AIではありませんでした
この出来事だけを見ると、生成AIを導入した成功事例に見えるかもしれません。
しかし、近くで見ていた私は、少し違うように感じています。
会社を変えたのはAIではありません。
「会社は分かってくれない」と諦めず、会社が何を守ろうとしているのかを考えた一人の社員でした。
そして、社員の話をすべて拒否するのではなく、ルールを確認し、利用を認めた管理職でした。
どちらか一方が勝ったのではありません。
お互いが、同じ方向を向ける方法を見つけたのです。
次回予告|第3話
「AIを使わせてください」と言われた管理職が、一番困っていたこと
次回は、社員とは反対側にいた管理職の立場から、 なぜ便利だと分かっていても生成AIの利用を認められなかったのかを紹介します。
第3話を読む生成AIを安全に使う知識を学ぶ
会社で生成AIの利用を認めてもらうには、 便利な使い方だけでなく、 情報漏えい、個人情報、著作権、AIの誤回答などの リスクについて理解しておく必要があります。
このサイトでは、生成AIパスポートの学習を通して、 仕事で生成AIを安全に活用するための基礎知識を 初めて学ぶ人にも分かりやすくまとめています。