現場で実際にあったAIの話|第1話

会社で生成AIが利用禁止になった実話|ルールがない職場で起きたこと

前の職場では当たり前に生成AIを使っていた中途入社の社員が、 新しい会社で利用を止められました。 社員と管理職のどちらかを悪者にするのではなく、 ルールがない職場で実際に起きた出来事を紹介します。

この記事について
この記事は、私が実際に職場で見た出来事をもとにしています。 会社名や人物を特定できないように、一部の表現を調整しています。

4か月ほど前、一人の中途社員が入社しました

4か月ほど前、私が働いていた会社に、一人の中途社員が入ってきました。

その人にとって、生成AIを仕事で使うことは特別なことではありませんでした。

前の会社では、議事録の作成、メール文章の下書き、 VBAやマクロの改善など、生成AIに任せられる仕事には ごく自然にAIを使っていたそうです。

私たちがExcelやメールソフトを使うのと同じように、 その人は仕事に必要な道具として生成AIを使っていました。

会社のマクロコードを、そのままAIへ貼り付けようとしていました

ある日、その人が会社で使っているマクロのコードを 生成AIへ貼り付け、改善しようとしている場面を見ました。

私は少し気になり、声をかけました。

「会社のコードを、そのまま生成AIに入力するのは 危ないかもしれません」

コードの中には、業務の仕組みや会社独自の処理、 ファイルの保存場所などが含まれている可能性があります。

その人に悪意があったわけではありません。 仕事を早く、正確に終わらせようとしていただけです。

前の職場では普通にできていたことを、 新しい職場でも同じように行っていただけでした。

会社では、生成AIの利用が認められていませんでした

私たちの会社には、生成AIを安全に利用するためのルールが まだありませんでした。

何を入力してよいのか。 どのサービスを使ってよいのか。 出力した文章を誰が確認するのか。

そうしたことが何も決まっていなかったため、 会社としては生成AIの利用を認めていませんでした。

私はそのルールに従い、仕事では生成AIを使わないようにしていました。

ただ、その社員は、利用禁止を知らなかったのか、 知っていても前職との違いを十分に理解していなかったのか、 その後も生成AIを使い続けていました。

入社から2、3日後、チームリーダーが気づきました

入社してから2、3日ほどたった頃、 その社員が生成AIを使っていることをチームリーダーが知りました。

その後、社内全体に向けて、 生成AIの利用を禁止するメールが送られました。

メールの内容を見たとき、 私は「やはり、こうなったか」と思いました。

会社としてルールがない以上、 情報漏えいなどの問題が起きても責任を負えない。

そう考えれば、禁止という判断も理解できました。

その社員は、黙って受け入れませんでした

ところが、その社員は利用禁止のメールに対して、 はっきりと自分の考えを伝えました。

「生成AIが利用できなければ、生産性が落ちます」

「仕事が予定どおり終わらなくなる可能性があります」

「それでもよいのであれば従います。 そうでなければ、利用を認めてください」

私はその言葉を聞き、少し驚きました。

入社してまだ数日です。

多くの人なら、会社の決定に疑問を感じても、 そのまま受け入れていたかもしれません。

私自身も、会社で決められたことだから仕方がないと考えていました。

チームリーダーの回答も、間違ってはいませんでした

社員の言い分に対して、チームリーダーは、 ルールがない状態では会社として責任を持てないと答えました。

生成AIを使えば、仕事が早くなる。

その一方で、機密情報や個人情報が入力されれば、 会社にとって大きな問題になる可能性があります。

AIが作った誤った内容を、そのまま仕事で使ってしまう危険もあります。

社員は、仕事を予定どおり進めたい。

管理職は、問題が起きたときに責任を負えない状態を避けたい。

二人の意見はぶつかっていました。 しかし、どちらか一方だけが間違っているとは思えませんでした。

私は「会社は変わらない」と思っていました

そのやり取りを見ながら、私は、 この話はここで終わるのだろうと思っていました。

会社にルールがない。

管理職は責任を持てない。

それなら、利用禁止のままになるのも仕方がない。

「便利なのに使えない」

会社で新しい仕組みを導入しようとしたとき、 同じような経験をした人もいるのではないでしょうか。

現場では役立つと分かっている。

それでも、ルールがない、責任者が決まっていない、 何かあったときが怖いという理由で止まってしまう。

私も、その一つだと思っていました。

しかし、その社員は別の行動を始めました

その社員は、会社への不満を言い続けるのではなく、 生成AIを安全に使うための知識を学び始めました。

そして、生成AIパスポートを取得しました。

さらに、自分で生成AIの利用ルールを作り、 会社へ提出しました。

入力してはいけない情報。

AIの回答をそのまま使わないこと。

利用する前に確認すべきこと。

「使わせてください」と繰り返すのではなく、 会社が安心して許可できる材料を自分で作ったのです。

最初に生成AIの利用を取り戻したのは、その社員でした

会社は、その社員が作った利用ルールを確認し、 まず本人に生成AIの利用を認めました。

その後、その考え方をもとに会社全体の利用ルールが作られ、 全社員が生成AIを使えるようになりました。

数日前まで禁止されていたものが、 一人の社員の行動によって会社全体で使えるようになったのです。

その変化を近くで見ていた私は、 「会社は変わらない」と決めつけていた自分に気づきました。

資格が欲しかったわけではありませんでした

後日、その社員に、 なぜ生成AIパスポートを取ったのかを聞きました。

すると、その人はこう答えました。

「資格が欲しかったわけではありません」

「生成AIを安全に使う知識があることを、 会社に分かる形で示す必要があったんです」

その言葉を聞いて、 私は資格に対する見方が少し変わりました。

資格は、取ること自体が目的ではありませんでした。

会社と同じ目線で話をするための、 一つの方法として使われていたのです。

会社は、本当にAIに反対していたのでしょうか

この出来事を振り返ると、 会社は生成AIそのものに反対していたわけではなかったのだと思います。

安全に使うためのルールがなく、 誰も責任を持って利用を認められなかっただけでした。

あなたの会社でも、同じことが起きていないでしょうか。

「うちの会社は新しいものを理解してくれない」

そう感じていても、実際には反対されているのではなく、 安心して判断するための材料が足りないだけかもしれません。

その違いに気づくと、 会社への伝え方も変わるのではないでしょうか。

次回予告|第2話

「AIは使うな」と言われても、会社を動かした一人の社員の話

次回は、利用を止められた社員が、 なぜ会社を責めるのではなく、 「会社が安心できる方法」を考え始めたのかを紹介します。

第2話を読む

生成AIを仕事で安全に使うために

会社で生成AIを活用するには、便利な使い方だけでなく、 情報漏えい、個人情報、著作権、AIの誤回答などの リスクを理解しておく必要があります。

このサイトでは、生成AIパスポートの学習を通して、 仕事でAIを安全に活用するための基礎知識を 初めて学ぶ人にも分かりやすくまとめています。