現場で実際にあったAIの話|第4話
AIが使えるようになって、一番変わったのは「仕事の速さ」ではありませんでした
生成AIが使えるようになれば、仕事は速くなります。 しかし、その社員が本当に取り戻したかったのは、 単純作業に奪われていた「考える時間」でした。 AIを使う目的について、実際の職場で起きた出来事から考えます。
この記事は、私が実際に職場で見た出来事をもとにしています。 会社名や人物を特定できないように、一部の表現を調整しています。
「AIを使うと仕事が速くなる」と、私も思っていました
生成AIの便利さを説明するとき、よく使われるのが「時間を短縮できる」という言葉です。
議事録を短時間で作れる。
メールの下書きをすぐに作れる。
資料の構成を考えてもらえる。
VBAやマクロの修正を相談できる。
どれも間違いではありません。
私も最初は、その社員が生成AIを使いたかった理由を、仕事を速く終わらせるためだと思っていました。
しかし、本人の話を聞いて、少し違うことに気づきました。
「早く帰りたいという話ではないんです」
利用ルールが整い、その社員が再び生成AIを使えるようになったあと、私は仕事の変化について聞きました。
生成AIが使えるようになれば、作業時間が短くなり、早く帰れるようになる。
そのような答えを想像していました。
しかし、その人はこう話しました。
「AIがあるから早く帰れる、という話ではないんです」
「単純作業はAIに任せて、本当に考えなければならない仕事に集中したいんです」
その言葉を聞いたとき、私は生成AIを使う目的を少し狭く考えていたことに気づきました。
私たちの一日は、考える前の作業で終わってしまいます
仕事には、考える前に終わらせなければならない作業がたくさんあります。
会議中のメモを読み返し、議事録の形に整える。
相手に失礼のないように、メールの文章を何度も書き直す。
資料を作る前に、見出しや構成を一から考える。
Excelの処理を少し変えるために、マクロのコードを調べる。
どれも必要な作業です。
しかし、その作業だけで時間を使い切ると、本当に考えるべきことが後回しになります。
気づけば夕方になり、今日も目の前の仕事を終わらせただけで一日が終わる。
そのような経験はないでしょうか。
本当に時間を使うべき仕事は、その先にあります
議事録を作ることは必要です。
しかし、本当に考えるべきなのは、会議で決まったことを次にどう進めるかです。
メールを書くことも必要です。
しかし、本当に考えるべきなのは、相手に何を伝え、どのような行動につなげたいかです。
Excelの処理を直すことも必要です。
しかし、本当に考えるべきなのは、なぜその作業が必要なのか、もっと簡単な方法に変えられないかということです。
生成AIが役立つのは、人が考えなくてもよいという意味ではありません。
人が本当に考えるべき仕事へ、時間を移すことができるからです。
その社員は、仕事を減らしたかったのではありません
その社員が生成AIを使いたかった理由は、仕事を減らして楽をするためではありませんでした。
AIに任せられる作業は任せる。
その代わり、人にしかできない判断や改善に時間を使う。
そのように、仕事の中身を変えたかったのだと思います。
生成AIを使えないと、生産性が落ちる。
本人が最初にそう話していた意味も、今なら少し違って見えます。
単に、一つの作業が遅くなるという話ではありません。
単純作業に時間を取られ、本当に考えるべき仕事へ進めなくなるということだったのです。
生成AIが使えるようになって、会話の内容も変わりました
会社全体で利用ルールが整備されたあと、少しずつ生成AIを使う社員が増えていきました。
会議メモを議事録の形に整理する人。
メールや社内文章の下書きを作る人。
資料の構成やアイデアを相談する人。
使い方は、それぞれ違いました。
しかし、共通していたのは、AIの回答をそのまま仕事にするのではなく、その回答をもとに人が考え、判断していたことです。
ゼロから文章を作る時間が減る。
すると、内容が正しいか、相手に本当に伝わるかを確認する時間が増えます。
作業時間が減っただけではありません。
仕事について考える会話が増えていったのです。
忙しいのに、前へ進んでいないと感じることはありませんか
一日中仕事をしている。
休んでいるわけでもない。
それでも、改善したかった仕事には手を付けられていない。
新しく考えたかったことも、また明日へ持ち越している。
そのような日が続くと、自分の能力が足りないのではないかと感じることがあります。
しかし、本当に足りないのは能力ではなく、落ち着いて考えるための時間かもしれません。
目の前の作業に追われ続ければ、経験や知識があっても、それを使う余裕がなくなります。
生成AIは、その余裕を取り戻すための一つの方法になり得るのだと思います。
AIの価値は、何分短縮できたかだけでは測れません
業務改善の成果を説明するとき、「作業時間を何分短縮した」という数字は分かりやすいものです。
もちろん、その数字も大切です。
しかし、短縮した時間が、さらに別の単純作業で埋まってしまえば、仕事の中身は大きく変わりません。
本当に大切なのは、空いた時間で何をできるようになったかです。
お客様への提案を考えられるようになった。
ミスが起きる原因を見直せるようになった。
後回しにしていた業務改善を始められるようになった。
こうした変化は、単純な時間の数字だけでは見えにくいものです。
しかし、仕事の質を変えるのは、むしろこの部分なのだと思います。
AIが取り戻したのは、人が考えるための時間でした
第1話では、生成AIの利用が止められました。
第2話では、一人の社員が会社の不安に向き合い、利用ルールを作りました。
第3話では、管理職もAIを止めたかったのではなく、会社を守るために判断できずにいたことを紹介しました。
そして今回伝えたかったのは、その先にあった変化です。
AIが使えるようになって一番変わったのは、単に仕事が速くなったことではありませんでした。
人が、考えるべき仕事に集中できるようになったことでした。
生成AIは、人の代わりにすべてを考える道具ではありません。
単純作業に奪われていた時間を、人のもとへ戻すための道具だったのです。
次回予告|第5話
「資格を取りたかったわけじゃない」その一言で、この出来事の意味が分かりました
次回は、その社員がなぜ生成AIパスポートを取得したのか、 本人の言葉から、この出来事の本当の意味を振り返ります。
第5話を読む生成AIを仕事で活かすための土台を学ぶ
生成AIを仕事で活用するには、操作方法だけでなく、どの仕事をAIに任せ、どの判断を人が行うのかを考える必要があります。
また、会社で安全に利用するためには、情報漏えい、個人情報、著作権、AIの誤回答などの基礎知識も欠かせません。
このサイトでは、生成AIパスポートの学習を通して、仕事でAIを安全に活用するための土台を初めて学ぶ人にも分かりやすくまとめています。